「緊張したからうまくいかなかった」「緊張したからミスしてしまった」

音楽高校に在学中、公開実技試験の本番直後、尊敬する人にどうだったかを聞かれ、私はこう答えました。息も上がり、興奮状態で咄嗟に“緊張”を言い訳にした私に、質問したその人はこんな言葉をくれました。「“緊張する”それはみんな一緒だよね。そしてこれからもずっとその“緊張”と付き合っていかなければならない。なぜ緊張したらうまくいかなかったのか、なにがいつもと違ったのか、緊張したうえでうまくいくにはなにが必要なのか、緊張の先を考えなければ成長しないのではないか。」

えぇぇ…なんて厳しい…緊張はしたくなくてもしてしまうものだから、仕方ないじゃないか…!なんてその時は思ってしまいましたが、家に帰ってから思い返し、確かにその人のおっしゃる通りだな、と腑に落ちました。本番のたびに緊張はする。それはもう当たり前でなんの言い訳にもならない、と恥ずかしくなりました。そこから、本番は体が固くなってしまう、肩が上がってしまう、ブレスが浅くなってしまう、耳を使えなくなってしまう、など、自分の緊張の先にある原因について考えられるようになっていきました。

 
緊張、というテーマは、生徒さんの悩みとしてもよく聞きます。「緊張しいで、本番に弱い」「緊張しないためにどうしたらいいですか」「緊張したらテンポが速くなってしまう」などなど。気持ち、とってもよくわかります。

先述したように、緊張に伴ってたくさんの原因があると思いますが、まず、私から1つお聞きしたいことは、“緊張”を悪いものだと思ってはいませんか、ということです。緊張していない、と言い聞かせたり、緊張しないための努力をしたり。緊張を否定することがうまくいく方もいるかもしれません。でももしその方法がうまくいかない場合は、発想の転換をしてみては。緊張は、いいことだと。いつもより集中できるようになったり、いつもより閃きが起きたり。緊張には悪いことばかりではありません。自分は緊張している!やったー、本番らしい精神状態だ!と、緊張を味方につけて、プラスに考えてみてはいかがでしょう。

私の生徒さんの1人に、「私は、本番、緊張しません」と言った強いメンタルの持ち主がいました。羨ましいです。でも、なんだか本番になると縮こまってしまっているように私には見えました。よくよく話を聞くと、本番はあまり音楽に集中できない、視界にとらわれてしまってお客さんの仕草が気になってしまう、いつの間にか本番が終わっている、と話してくれました。 …おや?それが、緊張ではないかい?試しに、次の本番は緊張していると自覚して受け入れてみよう、と挑戦してみると、いつもの彼女らしい、のびのびとした音楽を聞かせてくれました。このように、“緊張”のとらえ方を変えてみるだけで、自分にとっての本番も変わることもあるのかもしれません。良かったら試してみてください。

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